マンションで漏水事故が発生した場合、迅速な対応が必要です。しかし、実際にはパニックになってしまい、なかなかスムーズに動くことができないでしょう。被害を最小限に抑えるためには、どうすればよいのでしょうか。今回は、漏水事故が起こったときの対処の手順や誰が費用負担するのかについてくわしく解説します。
漏水事故が起きたときの対処手順
漏水事故が発生した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
被害を最小限に抑えるためには、以下の手順に従い、対処を進めることが重要です。
1. 原因を調べて応急処置を行う
まずは、漏水の原因を確認し、できる限り応急処置を行います。
たとえば、給水管や蛇口の緩みが原因であれば、止水栓を閉めることで一時的に漏水を止められます。水が止まらない場合はバケツなどで水を受けたり、シートで養生するなどして被害の拡大を防ぎましょう。このとき、被害状況を写真や動画で記録しておくことも重要です。
ちなみに漏水の原因には、居住者の不注意によるものと建物の老朽化によるものがあります。とくに、築年数の経ったマンションでは、給水管や給湯管の劣化が原因となるケースが多いです。定期的なメンテナンスが行われていない場合、劣化が進行し、思わぬ形で漏水が発生することがあります。
2. 管理会社に報告する
マンションやアパートの場合、管理会社へ迅速に連絡します。
修理業者の手配や費用負担に関して、管理会社の指示を仰ぐことで、後々のトラブルを防ぐことができます。独自の判断で修理を依頼してしまうと、修理費用が自己負担になる可能性があるため、必ず管理会社の指示を受けるようにしましょう。
3. 修理を依頼する
管理会社の指示にもとづき、指定された修理業者や信頼できる業者に修理を依頼します。
指定がない場合は、早急に対応可能な業者を探して連絡しましょう。普段から修理業者を調べておき、連絡先を事前に控えておくと、緊急時にスムーズに対応できます。
4. 水道業者・電気業者に連絡する
必要に応じて、水道業者や電気業者にも連絡を取りましょう。
漏水が続くと、水道メーターが回り続け、高額な水道料金が発生する恐れがあります。また、漏水により電化製品が濡れてしまった場合、感電や漏電のリスクがあるため、専門の電気業者に点検を依頼することも必要です。
5. 階下の住民に説明する
階下の住民にも漏水の状況を説明し、被害が及んでいる場合は誠意を持って謝罪します。
即座に被害が確認できない場合でも、後から天井にシミができることもあるため、上階で漏水事故が発生した事実を伝えることが大切です。
6. 保険会社に連絡する
被害の状況が把握できた段階で、保険会社に連絡します。
漏水事故の場合、多くは保険が適用されますが、事故の原因や責任の所在により適用される保険内容が異なるため、原因究明が重要です。修理代やその他の費用に関する領収書は必ず保管しておきましょう。
漏水事故の損害賠償の範囲
漏水事故が発生すると、被害者に対して損害賠償を行わなければならない場合があります。
賠償の対象や範囲は事故の規模や被害の状況によって大きく異なりますが、一般的に賠償しなければならないものには、内装修理費用、家財のクリーニング代や時価相当額、ホテル宿泊費などが含まれます。ここでは、漏水事故における損害賠償の範囲について詳しく解説します。
内装修理費用
漏水事故でもっとも一般的に賠償対象となるのは、他人の部屋の床や壁などの内装修理費用です。
水がほかの住居に流れ込むことで、床や壁が汚れたり、損傷したりすることがあります。これらの修繕には、漏水を起こした側が修理費用を賠償する必要があります。
さらに、直接的な漏水被害がなかった場合でも、被害の原因調査のために壁や床を壊さざるを得なかった場合、その修理費用も賠償の対象となります。漏水事故の対応が遅れると被害が広がり、結果として修繕範囲が拡大する可能性があるため、速やかに対応することが重要です。
家財のクリーニング代や時価相当額
漏水事故で、他人の部屋にある家財(家具や電化製品、衣類など)が汚れたり損傷したりした場合、そのクリーニング代や時価相当額での補償が必要です。
衣類やカーペットなど、クリーニングで元に戻せるものについてはクリーニング代を賠償することで済みますが、クリーニングが不可能な家財、たとえばテレビや冷蔵庫などの電化製品、木製家具などの場合は、その時点の時価相当額で賠償します。
時価相当額とは、購入時の価格ではなく、使用年数や損耗度を考慮した現在の価値です。そのため、新品購入費用を全額補償しなくてよいとされています。あくまで被害を受けた物品の現在価値が基準のため、ある程度の年数が経過している物品の場合は、新品より賠償額が低くなります。
ホテル宿泊費
漏水事故の被害が大きく、生活が困難になる場合、被害者が一時的に避難せざるを得なくなるため、ホテルの宿泊費を払わなければならないことがあります。
ただし、宿泊費の賠償については、相場を大きく超えるような高額なホテル費用を全額負担する必要はありません。地域や時期によって宿泊費が変動するため、実際に支払われる賠償額は両者の話し合いによって決定されることが多いです。
休業損害や慰謝料について
漏水事故の対応に追われた結果、仕事を休まざるを得なかった場合「休業損害」として賠償を求めるケースがありますが、この場合賠償が認められないことが多いです。
具体的な証拠(勤務時間外では対応できなかった理由や実際に給与が減った証拠など)が必要であり、一般的には認められにくい損害です。
また、漏水事故は物損事故に該当するため、精神的な苦痛(慰謝料)に対する賠償は基本的には認められません。物品や内装の損害に対して行う賠償が、精神的な負担もある程度補うものと考えられています。そのため、慰謝料を求める場合は、特別な事情が必要になることが多いです。
漏水事故による損害は誰が費用負担するのか
漏水事故による損害は、状況に応じて誰が費用を負担するのかが異なります。
おもに「居住者」「管理組合」「施工業者」の3者が関与することが多く、それぞれのケースに応じて責任が異なります。具体的にどのような場合に誰が費用を負担するのかをくわしく見ていきましょう。
居住者が費用を負担するケース
専有部分にあるキッチンや洗面台下の配管の接続不良、ピンホール、または蛇口の閉め忘れ、掃除不足による排水口の詰まりなど、漏水の原因が専有部分にある場合、その費用は居住者が自費で対応するか、個人賠償責任保険で補償を行います。
賃貸マンションにおいても、住人が原因で漏水事故が発生した場合は、火災保険に特約として付けられている個人賠償責任保険で補償されることが一般的です。とくに、階下の住戸まで被害が及ぶと、損害賠償の請求がなされることもあります。
居住者の不注意による漏水事故は避けることができるため、日頃から水まわりの使用には十分な注意が必要です。定期的に点検や清掃を行い、設備が正常に機能しているかを確認することが、事故を未然に防ぐための重要な対策となります。
管理組合が費用を負担するケース
漏水事故の原因が共用部分にある場合、管理組合の加入している保険で補償されることが一般的です。
たとえば、共用配管の劣化や屋上防水の不具合による漏水が発生した場合、管理組合がその修理費用を負担します。また、原因不明の場合、区分所有者法にもとづき、共用部分の事故として扱われるため管理組合が費用を負担することがあります。
漏水の発生場所が不明確な場合は、まず専門業者による調査が必要ですが、調査で原因が特定されないことも少なくありません。このような場合、管理組合の加入する保険が適用されるのが一般的です。
施工業者が費用を負担するケース
漏水事故の原因が施工ミスである場合は、施工業者が費用を負担します。
施工ミスとは、設計や工事に不備があったために事故が発生した場合を指します。しかし、施工ミスを証明するのはかんたんではありません。施工会社は、明確な証拠がなければ自らのミスを認めることは少なく、専門業者による調査や報告が必要です。
施工ミスが認定されると、施工業者は修理費用を負担し、被害者への補償も行う必要があります。施工業者がミスを認めた場合、建物全体に関わる問題が解決されることが多いですが、問題を解決するためには十分な調査が不可欠です。
漏水事故の損害賠償には保険が使える?
漏水事故は日常的に発生するリスクのひとつですが、損害賠償には保険が適用される場合があります。
おもに「マンション総合保険」「個人賠償責任保険」「火災保険の水漏れ保証特約」の3種類の保険が関わります。まず、マンション総合保険(施設賠償責任保険特約など)は、管理組合が加入している保険で、共用部分の漏水による損害をカバーします。
たとえば、マンションの共用パイプからの漏水で発生した損害に対して、管理組合が責任を負う場合、この保険が活用されます。
次に、個人賠償責任保険は、他人に損害を与えた場合に適用されます。例えば、自室で発生した漏水が他の住戸に被害を及ぼした場合、個人賠償責任保険でその損害をカバーできます。
この保険は、火災保険や自動車保険の特約としてセットされていることが多く、一世帯で誰かが加入していれば家族全員が保障されるケースもあります。
最後に、火災保険の水漏れ保証特約です。これは、設備の老朽化による漏水事故や過失を除き、自室の内装修理が必要になった場合に保険金が支払われます。この特約があれば、加害者側の保険から全額補償が受けられない場合でも、ある程度自分で備えることが可能です。
最近では、管理組合が負担する保険料の増加を背景に、マンション総合保険から個人賠償責任保険の特約を外すケースが増えています。これにより、各戸で個人賠償責任保険に加入することが重要視されています。
実際に漏水事故が起こった際、管理組合の保険が適用されない場合、個人で加入した保険が損害賠償を支える唯一の手段となります。加入している保険が補償の対象かどうか、また補償範囲や限度額は契約内容によって異なるため、詳細を確認しておくことも大切です。
まとめ
漏水事故は迅速な対応が求められます。原因を把握し、管理会社や業者との連携を図ることが、被害拡大を防ぐためのポイントです。とくに、賃貸物件では管理会社や大家と協力し、トラブルが長期化しないように心掛けましょう。また、補償の責任は原因や漏水箇所によって異なります。居住者の不注意や専有部分の不具合による漏水は居住者が、共用部分が原因の場合は管理組合が、そして施工ミスが原因であれば施工業者が費用を負担します。賠償の範囲には、内装修理費用やホテルの宿泊費などが含まれます。休業損害や慰謝料は認められないことが多いものの、漏水事故の被害が大きくなる前に迅速な対応を行いましょう。